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このカラフルな丸い物体が、悲しみを倍増させるのです…。

以前ご紹介したRob Sheffield著「Love Is A Mix Tape」(レビュー記事はこちら>>)は、良質な音楽案内であるとともに、読書案内としても興味深い本でした。今回レビューする「That Was Then, This Is Now」は、Sheffield氏が少年時代に読んだという一冊。1971年に出版された、米オクラホマ州タルサ出身の女性作家S. E. ヒントンによる青春小説です。

「Love Is 〜」の中でこの本は「薬物乱用防止の啓発小説 (the don't-take-drugs paperbacks)」とされ、物語から引用した短い文章とともにサラッと触れられているだけだったのですが、その一文がいかにもサイケデリックで、大人の私が読んでもなかなかに怖いんです。「アメリカ人は10代でそんな強烈な本を読むのか…」と、じわじわ気になってきました。Amazonを検索して出てきたこの本のカバーデザインがとても気に入り、即座に購入ボタンをクリックしてしまった次第です。

幼い頃から兄弟のように同じ時を過ごし、固い絆で結ばれていた2人の少年。大人への階段を上るにつれて2人の関係に小さな亀裂が生まれ、やがてその友情は悲しい幕切れを迎えます。

2人の間を引き裂く決定的なきっかけとなったのがドラッグでした。ドラッグが蔓延する背景として描かれているのは、経済格差によるコミュニティの分断と暴力、大人によるネグレクトや精神的虐待などです。社会が抱える問題が、70年代と現在とでほとんど変わっていないことに愕然としました。変わっていないというよりも、歴史は繰り返すということなのかな…。

それと、2人の少年の友情が破綻していくさまが、本当にやるせなくて…。私はこの物語を読んで、サン=テグジュペリの「人間の土地」に書かれていた一文を思い出しました。

「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」

どんなにお互いを必要とし、相手を大事に思っているつもりでも、その思いが間違った方向に行ってしまうと、関係が壊れるばかりか相手の人生までも崩壊させることにもなりかねないのです。こんなにも厳しい人生の側面をティーンに向けて語ってしまっていいの?と思いましたが、著者がこの本を書いたのは20歳前後だというから、ただただもう驚きです…。

164ページと短め、英文もシンプルで読みやすいので多読にも最適…と言いたいところですが、読後感は決して良くはないので「ハッピーエンドの作品以外は読みたくない」という方にはオススメしません。ですが、この本で描かれていることは決して遠い世界の話ではなく、人生の歯車がひとつ狂えば誰の身にも起こり得ることだと思います。若者だけでなく幅広い年代に、長く読まれてほしい作品です。

That Was Then, This Is Now (S. E. Hinton) -Amazon.co.jp


※カバー装画と解説は宮崎駿。

※読書中、M&M'sを食べたくてたまらなくなりましたが、読了後はその気持ちもどこかへ消えました…。


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by book-of-dreams | 2019-07-27 00:40 | YA(ヤングアダルト) | Comments(2)
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洋書を読むのをしばしお休みし、こちらを読んでいました。

イサム・ノグチについては、照明器具「あかり」などでその名前こそ知っていたものの(我が家には「あかり」が何点かあります。そのうちの一つは、かつて飼っていたインコにかじられダメになりました…)、ノグチがどのカテゴリーに属する芸術家なのかについてはあまり考えたことがありませんでした。

昨年5月にニューヨークの「イサム・ノグチ庭園美術館」を訪れた時(旅の記録はこちら→別館の雑記ブログへ)、イサム・ノグチがどの枠組みにもとらわれない、孤高の芸術家であることを感じとりました。そして彼の作品には、見る者を大歓迎するわけでも突き放すわけでもない、不思議な寛容性と包容力がありました。そのような作品を生み出すイサム・ノグチがどのような人物だったのかを知りたくて、数ある評伝の中から選んだのが、ドウス昌代さんによるこの本です。

そこに書かれていたのは、生涯を通じて安住の地を見つけることのできなかった一人の男の孤独、そして怒りでした。日本人の父とアメリカ人の母の間に生を受けたノグチは、二つの国の狭間でアイデンティティを早々に失います。そして、自分の望むような愛情を両親から受けることができないまま育ったノグチの性格は、徐々に屈折したものになっていきました。母と自分を捨てて他の女性に走った自分勝手な父親を激しく憎みながら、自らも数々の女性と浮名を流し、時には相手の深い愛情にかこつけて都合よく利用したりします。

その複雑な精神は芸術活動にもそのまま現れています。どの派閥にも属さず、自分のことを認めない者に対しては敵意をむき出しにしますが、自分を評価し手を差し伸べてくれた人を突然拒絶したり、成功が目前に迫ったところで自らをそれを手放したりするのです。

帰属する場所を切望する一方で、ひとつどころに身を置くことを極端に恐れたノグチ。人の愛を誰よりも必要としながらも、人を心から信用する術を持ちませんでした。私が彼の作品から感じた包容力の正体は、「手に入れられないものへの畏れと憧れ」だったのかもしれません。人は何かに憧れている時が一番幸せで、たとえそれがどんなに恋い焦がれたものでも、いざ手に入れた途端、情熱がいっぺんに冷めてしまうことがあります。だからこそ憧れは憧れのまま、壊れないように自分の胸に抱きしめていたい…。生きていると、そんなことは往々にしてありますよね…。ないですか? 私はしょっちゅうです。


ノグチは1988年12月、84歳でこの世を去りました。亡くなる数ヶ月前にノグチが残した言葉を引用します。
「今、世の中は何でもインスタントになりすぎている。文化の中でも一番新しいものばかりおもしろがり、次から次へ先ばかり追いかける。それはとても危ない、なぜなら、人間はそういうものじゃないからです。人間は何年もかけて文化を形づくるようにできている。そのことをもう一度よく見つめ直さねばならない時代に来ているのじゃないですか。日本だけでなく、世界中がね…」
天国にいるノグチから見た今の地球は、どのような彫刻に仕上がっているでしょうか……。




評伝でもう一冊、読んでみたいのがこちら。こちらは英語で挑戦するつもり。


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by book-of-dreams | 2019-07-20 15:09 | 日本語の本 | Comments(2)
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[あらすじ] 深夜のブルックリン。「僕」はひとり、アパートの片隅でカセットテープを聴いている。妻のレネーがお気に入りの曲を集めて作ったミックステープだ。レネーと出会って以来、2人で数え切れないほどのミックステープを作ってきた。愛し合うときに流す音楽、ダンス用ミックス、睡眠用BGM、皿洗いの時にかける曲、犬の散歩の時に聴く音楽…。2人の性格は正反対で、共通するのは「音楽が好き」ということだけ。レネーといるとき、「僕」はいつでも幸せだった。妻を失ったあの日まではー。

あああああ、もうダメです…。

ここまで書いたところで、私は泣いています。さっきも、写真をアップしたその瞬間に涙が出てきて、しばらく先に進めずにいました。この記事を書き上げるまで、私の精神状態は持つのだろうか。

「Love Is A Mix Tape」は、音楽雑誌Rolling Stoneの寄稿ライターのロブ・シェフィールドさんが、妻レネーさんとの日々を綴った回顧録です。ロブさんの物語は、1993年、彼がブルックリンのアパートで眠れぬ夜を過ごすシーンで始まります。部屋で流れているのは、レネーさんのお気に入りの音楽。しかし、ロブさんの隣にそのレネーさんはいません……。そこから、1人の「草食系音楽オタク」の愛と喪失の思い出が静かに語られていきます。

この本、本編は217ページと短めなんですが、読み終えるまでにすごく時間がかかってしまいました。なぜなら、ロブさんの妻への思いがあまりにも深くて、それがとても悲しくて、一つの章を読み終えるたびに何も手につかなくなるからです。2人で過ごした日常のできごとが淡々と語られているだけなのに、気がつくと涙がこぼれて、胸が張り裂けそうになるのです。

この感覚、前にも経験したことあるぞ。それも最近、似たような気持ちを毎週のように味わってる気がする…。

そうだ、これ、ドラマ「This Is Us/ディス・イズ・アス」だ!

「This Is Us」は、ジャックという人物が⚪︎⚪︎しているという事実を視聴者が知っているからこそ、ジャックと彼を取り巻く人々の人生模様に毎回涙してしまうわけですが、「Love Is A Mix Tape」も、これと同じ構図なのです。ロブさんがレネーさんに向ける優しい眼差しは、「This Is Us」でジャックが見せる、愛する人に自分の全てを捧げる姿そのもの。ロブさんは内気な草食系で、ジャックほど熱い性格ではありませんが…。ああ、この2つを思い返しただけで、また涙が出てきた…。

そしてこの本では、ロブさんとレネーさんの生活をそのときどきで彩ってきた音楽が惜しみなく紹介されています。夫婦ともに音楽ライターというだけあって、曲のセレクトがとても素晴らしいのです。といっても私は特に音楽マニアというわけではないので、知らない曲も結構出てきて…。気になる曲名が出てくるたびに、Spotifyで探して聴いていました。ありがたいことに、Spotifyにはこの本の読者が作ったプレイリストが公開されているのです。全343曲、21時間49分の大作。作成者のJulieさんには感謝の言葉しかありません。


切ない愛の物語ですが、最後は希望の見える形で締めくくられます。人を愛することは、時として辛いこともあるけれど、それでもやっぱり素敵なことだな…と思えます。この本は、これからもボロボロになるまで何度も繰り返し読むことになりそうです。


ちなみに、私がロブさんを知るきっかけになったのは、2015年のローリング・ストーンWeb版に掲載された、ロブさんによるOne Directionののライブレポートでした。

この記事の2番目そして14番目の項目を読んで、即座に「ロブさんとは気が合うな」と思いました。私の読書履歴と日頃の言動を見れば、なんとなくその理由をわかっていただけると思います。私の推しはルイとハリーです(いらない情報)。

そして、ハリー・スタイルズもロブさんの文章を気に入っているようで、雑誌「i-D」のティモシー・シャラメとの対談の中で、お気に入りの本として「Love Is A Mix Tape」を挙げています(日本語版)(英語版)。さらに今年2月には、この本を手にしたハリーの写真が公開され、これにはロブさんも大喜びでコメントを寄せました。このツイートは、私がこの本を購入する決め手になりました。

本と私の出会いは、本探しとは関係のないところで、こんなふうに偶然やってくることが多いです。人との出会いと同じように。



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by book-of-dreams | 2019-07-11 07:00 | 回顧録・伝記 | Comments(8)
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昨年(2018年)ボストンを旅行した際、ハーバード大学のすぐそばにある独立系の本屋さんで「Voracious」という本に出会いました。「地元出身の作家」の棚に並べられているのを見つけ、「可愛い!」と即買いしたものです。

著者はCara Nicolettiさん。ボストンの精肉店の娘として生まれ、現在はニューヨークでソーセージ職人およびfood vloggerとして活躍している女性です。幼少期は、家族がお店を切り盛りするそばで本を読みながら過ごしていたそうです。この本では、Nicolettiさんがこれまでに読んできた本にまつわる思い出と、本に出てくる(もしくは本にインスパイアされた)料理のレシピが紹介されています。柔らかなタッチでページを彩るMarion Bologneseさんのイラストも素敵です。
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ベッドの脇に置いて寝る前にパラパラめくっているだけで、優しい気持ちになれる本。読んでいるとお腹が空いてくるのが困りものですが…。読書も食べることも大好きな私にとって、この本はボストンで見つけた最高の宝物になりました。


話は変わって。

ボストンの食べ物で強く心に残っているのは、ホットドッグです。といっても、私は食べていないのですが…。
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ボストンに到着したその日の夜、ボストン・レッドソックスの試合を見に行きました。平日だというのに、スタンドは超満員でした。試合中、ホットドッグやピーナッツの売り子がスタンドを回ってきます。通路から離れた席に座っている人は、「ホットドッグ2つ!マスタード多めで!!」と大声で叫びます。こんなとき、私のようなシャイな人間なら「叫ぶのは恥ずかしいからトイレのついでに売店で買おう」となりますが、アメリカ人はもちろん遠慮したりしません。そして、代金が周囲の観客のバケツリレーで売り子に届くと、再び観客の連携プレーによってホットドッグが注文した人の元に帰っていく仕組み。

何度目かの「絶叫オーダー」のあと、われわれの座席を回ってきたのはなんと100ドル札でした。普通、アメリカのお店では高額紙幣はまず受け取ってもらえません。これにはスタンドもざわめきます。「マジかよ」「もらっちゃおうかな」「ニセ札じゃねーの」「お釣りあんのか?」そんな声とともに100ドル札は観客の手を渡ってゆき、無事に売り子の元へ届きました。売り子はお札をライトに透かしてニセ物でないことを確かめ、ホットドッグはめでたく注文者の元へ。「お釣りが足りないから、後でそっちに持っていくよ!」売り子さんはそう言って立ち去り、ほどなくしてお釣りはちゃんと返されたようでした。おそらく、崩したお金がバケツリレーの途中で抜き取られたりしないよう、売り子さんが気を使ったのかもしれません。

レッドソックスのファンは終始こんなふうに愉快で、熱くて、人間臭くて、試合そのものより人間ウォッチングをしている方がずっと楽しかったです。私の手を通り過ぎていったホットドッグは大きくて熱々で、とてもいい匂いがしました。その日はひどい時差ボケで胃の調子がおかしく、ホットドッグを食べられなかったことが心残りですが。しかしその数日後、地元のソーセージ職人が書いた心温まる本に巡り会えたのですから、私にとっては100ドル札が束で回ってきたのと同じぐらい、価値のある旅になりました。




ボストン野球観戦の思い出を別館の雑記ブログでも綴っています。


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by book-of-dreams | 2019-07-02 22:54 | 本好きのひとりごと | Comments(8)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko