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カテゴリ:日本語の本( 1 )

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洋書を読むのをしばしお休みし、こちらを読んでいました。

イサム・ノグチについては、照明器具「あかり」などでその名前こそ知っていたものの(我が家には「あかり」が何点かあります。そのうちの一つは、かつて飼っていたインコにかじられダメになりました…)、ノグチがどのカテゴリーに属する芸術家なのかについてはあまり考えたことがありませんでした。

昨年5月にニューヨークの「イサム・ノグチ庭園美術館」を訪れた時(旅の記録はこちら→別館の雑記ブログへ)、イサム・ノグチがどの枠組みにもとらわれない、孤高の芸術家であることを感じとりました。そして彼の作品には、見る者を大歓迎するわけでも突き放すわけでもない、不思議な寛容性と包容力がありました。そのような作品を生み出すイサム・ノグチがどのような人物だったのかを知りたくて、数ある評伝の中から選んだのが、ドウス昌代さんによるこの本です。

そこに書かれていたのは、生涯を通じて安住の地を見つけることのできなかった一人の男の孤独、そして怒りでした。日本人の父とアメリカ人の母の間に生を受けたノグチは、二つの国の狭間でアイデンティティを早々に失います。そして、自分の望むような愛情を両親から受けることができないまま育ったノグチの性格は、徐々に屈折したものになっていきました。母と自分を捨てて他の女性に走った自分勝手な父親を激しく憎みながら、自らも数々の女性と浮名を流し、時には相手の深い愛情にかこつけて都合よく利用したりします。

その複雑な精神は芸術活動にもそのまま現れています。どの派閥にも属さず、自分のことを認めない者に対しては敵意をむき出しにしますが、自分を評価し手を差し伸べてくれた人を突然拒絶したり、成功が目前に迫ったところで自らをそれを手放したりするのです。

帰属する場所を切望する一方で、ひとつどころに身を置くことを極端に恐れたノグチ。人の愛を誰よりも必要としながらも、人を心から信用する術を持ちませんでした。私が彼の作品から感じた包容力の正体は、「手に入れられないものへの畏れと憧れ」だったのかもしれません。人は何かに憧れている時が一番幸せで、たとえそれがどんなに恋い焦がれたものでも、いざ手に入れた途端、情熱がいっぺんに冷めてしまうことがあります。だからこそ憧れは憧れのまま、壊れないように自分の胸に抱きしめていたい…。生きていると、そんなことは往々にしてありますよね…。ないですか? 私はしょっちゅうです。


ノグチは1988年12月、84歳でこの世を去りました。亡くなる数ヶ月前にノグチが残した言葉を引用します。
「今、世の中は何でもインスタントになりすぎている。文化の中でも一番新しいものばかりおもしろがり、次から次へ先ばかり追いかける。それはとても危ない、なぜなら、人間はそういうものじゃないからです。人間は何年もかけて文化を形づくるようにできている。そのことをもう一度よく見つめ直さねばならない時代に来ているのじゃないですか。日本だけでなく、世界中がね…」
天国にいるノグチから見た今の地球は、どのような彫刻に仕上がっているでしょうか……。




評伝でもう一冊、読んでみたいのがこちら。こちらは英語で挑戦するつもり。


*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

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by book-of-dreams | 2019-07-20 15:09 | 日本語の本 | Comments(2)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko