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近未来に思いを馳せながら現代社会を見つめ直す クララとお日さま/Klara and the Sun (Kazuo Ishiguro)

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2011年の春、東日本で起こった震災が日本中に暗い影を落としていたころ、私はカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んでいました(稚拙な感想を雑記ブログに残しております)。

あれからちょうど10年と言うタイミングで、カズオ・イシグロの新作『クララとお日さま(原題 : "Klara and the Sun")』を手に取ることになりました。イシグロは10年前と同じように、先の見えない不安な状況のもとで自分が大事にすべきものは何なのかを考える機会を私に与えてくれたのでした。

イシグロが描くような近未来、つまり人間がAIロボットを当たり前に所有する時代が本当に来るとするなら、私は今から自分の生き方を見つめ直さなければいけない、と思いました。例えば今日読む本の選び方やその本の置き場所といったほんの小さなことにも、人間は注意を払わなくてはならないのです。

AIロボットの「クララ」はたいへん優秀で、所有者である少女を一途に愛して彼女の幸せのために尽くそうとします。しかしクララがいかにしてそのような性格を持つに至ったのかについては、きめ細やかな描写の断片をかき集めて読者自身が想像するしかありません。それは、現実社会に生きる私たちが日ごろ一番おろそかにしている類いの作業です。あらゆる局面において結論だけを早急に追い求め、その過程や背景にあるものに目を向けようとしない私たち。クララの美しく切ない物語は、そんな私たちに対する愛にあふれた警告です。



この素晴らしい作品をまず日本語で読みました。世界で発売されるのと同時に自分の国の言葉で読める…これ以上の幸せがほかにあるでしょうか。いやあるはずがない。土屋政雄さんの翻訳による美しい敬体(です・ます調)での語りは、これまでの作品(『日の名残り』『わたしを離さないで』)の中でも最も効果的に作者の意図を表現していると思います。巷に溢れる音声ガイドの口調に、われわれはすっかり慣れてしまっていますからね。


美しい表紙の日本語版だけで私の所有欲は満たされ、当初は原書を買うつもりはありませんでした。しかし物語を読みすすむに連れて洋書のデザインも秀逸だなと思えてきて、日本語版を読了したその日に原書も購入してしまいました。今は原書で2周目を読んでいますが、日本語と英語それぞれの美しい文章から得たさまざまな思いがミルフィーユのように心に積み重なり…。当分は自分の傍に「クララとお日さま」があるだけで心豊かに生きていけそうです。







*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

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Commented by aya_kit_pa at 2021-03-23 14:11
こんにちは。
『クララとお日さま』をもうすぐ読み終えるところです。
テーマの扱い方が、臓器提供の過去作『わたしを離さないで』と
似ているように感じられました。
土屋政雄さんの翻訳は大変読みやすいですね。

原著もお読みなんですね!
シンプルなデザインもまた、素敵です。
Commented by book-of-dreams at 2021-03-24 09:34
> aya_kit_paさん
こんにちは。コメントありがとうございます!
ちょうど、読み終えられた頃かもしれませんね。
ラストはいかがでしたでしょうか?
(私は思い出すだけで鼻の奥がツーンとなります…)

『わたしを離さないで』も、物語の全容がわかった時にはハッとさせられましたが
AIが遠い未来のものではなくなった今、クララの物語はより身につまされます。

原書のシンプルなデザインにも意味があることがわかってからは
この作品がますます愛おしくなり、
翻訳と原書合わせて立て続けに4回読んでしまいました。
一つの作品にこんなにのめり込んだのは久しぶりです。
by book-of-dreams | 2021-03-08 10:21 | SF・ファンタジー | Comments(2)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko