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欧米の過去、そして現在を知るためのノンフィクション2冊 「西洋の自死」「ファンタジーランド」

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水前寺清子さんが歌う「三百六十五歩のマーチ」という曲があるじゃないですか。1968(昭和43)年にリリースされた、日本で生まれ育った人なら世代を問わず誰もが知っている(30代以下の人も、1度ぐらいは耳にしたことあります…よね??)名曲です。

その歌詞を読むと、高度成長時代をグイグイ突き進んでいた当時の日本の雰囲気がとてもよく伝わってきます。「三歩進んで 二歩さがる」というフレーズは実におおらか。時には失敗したり停滞したりしてもいい、みんなで少しずつ前進していけばいいじゃないか…という、人々の心が希望に満ちていた時代ならではの懐の深さを感じ取れるのです。

今の日本はというと、どこを見回してももうそんな余裕はないように思います。三歩進んだら四歩ぶんの成果を出せと上から言われて、目の前にぶら下げられた萎びたニンジン(しかもニセ物)(「エコファー」風に言うなら「エコキャロット」)めがけて前に進もうとするんだけど、気がつけば出発点から五歩ぶんぐらい後退している。成果を出せといった人間は馬車に揺られてグースカ寝てるので(寝たフリ?)、後退していることに気づかない(気づかないフリ?)…みたいな状態がもうずっと長いこと続いている感じです。

なぜ日本がそうなってしまったのか、そして今後はどうすればいいのかを考えるためにも、日本がお手本にしているヨーロッパの先進国、そしてアメリカの動向を知りたい…そう思い、世界的にベストセラーとなったノンフィクション2冊を読むことにしました。

今年1月31日に英国がEUから離脱。そして今月に入り、アメリカでは大統領選の予備選挙が始まりました。どちらも日本の将来にも多大な影響を与えるものであり、今後の行方に目が離せません。日々の楽しみとして英語の本を読んでいる私としては、欧州や米国を取り巻く状況をしっかり把握しておきたいもの。SNSやニュース記事から情報を断片的に拾うのとはまた別に、内容の精査された書籍をじっくり読んで全体を俯瞰することは、デタラメな情報に振り回されないようにするためにも大事なことだと思います。

今回読んだのは、Douglas Murray著「The Strange Death of Europe(長いので、以下邦訳版タイトル『西洋の自死』で表記)」そしてKurt Andersen著「Fantasyland: How America Went Haywire: A 500-Year History(以下邦訳版タイトル『ファンタジーランド』で表記)」です。

「西洋の自死」の著者は英国の保守系ジャーナリストです。欧州に押し寄せるイスラム系移民について切り込む内容に、極右による憎悪に満ちた本なのでは…と、読み始める前は少々身構えましたが、そんな先入観を見事に打ち砕く良書でした。過去の侵略への反省という名のもと、外面ばかりを気にして深い議論をすることなく移民政策を推し進めた結果、多様な社会が実現されるどころか逆に萎縮して自国主義に走るという皮肉。著者の批判は、根本的な問題から徹底して目を逸らし、建設的な議論を避け続けてきた西欧諸国のエリート層に対して向けられており、移民を非難するものではありません。

一方の「ファンタジーランド」の著者は、米国のエリートリベラル。とはいえ、お堅い左派の論客がしかめっ面でトランプ政権の悪口を言い続ける類の本ではありません。テレビやラジオ番組などのエンタメ畑を歩んできた人だけあり、ウィットに富んだ論調が隅々まで冴え渡ります。メイフラワー号に乗って北米大陸に渡ったピルグリム・ファーザーズを「イカれたカルト教団 (a nutty religious cult)」と呼ぶその感覚にまず驚愕。そこから先は、トランプ政権誕生に至るまでの歴史の自虐ネタが炸裂します。その滑稽さに何度も吹き出しながら、読み進めるほどににどんどん絶望的な気分になるという、これまでにない読書体験が得られました。ノンフィクション本において、脚注で大笑いしたのはこれが初めてかもしれません。

毛色のまったく異なる2冊でしたが、西欧諸国や米国の抱える問題がよくわかりました。これらの本を読むと、細かいことを抜きにすれば「日本って案外まともでは?」と思ってしまいそうになります。が、他人事として呑気に眺めている場合ではありません。日本のエライ人たちは、どういうわけか他の先進国の悪いところをマネするのが大の得意ですからね…。

しかし、ここまでガラパゴス的に独自路線をとことん突き進んできた日本です。この先、世界を揺るがす本格的な危機が訪れたとき、案外一番しぶとく、困難を乗り越えられるのではないかという気がしないでもありません。その時には、かつての包容力あふれる日本の姿を取り戻せるかもしれない……。まあこれもなんの根拠もない、祈りにも似た思いなんですけどね………。こんな自分もファンタジーランドの住民の一人なのだと自覚しつつ、現実逃避のために今日も本の世界に籠もるのです。






※ペーパーバック版は字がめちゃめちゃ小さい! Kindle版にすればよかった…。





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by book-of-dreams | 2020-02-16 09:12 | ノンフィクション | Comments(0)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko