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朝食のマーマレードにすら隙がない…ゴシック・ミステリーの名作 Rebecca(Daphne du Maurier)

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ダフネ・デュ・モーリアの「レベッカ」は、学生時代からずっと読んでみたいと思いながらも機会を逃していた作品です。日本語訳で読むという選択肢もありましたが、読むならぜひ原書で…と思っていました。ヒッチコック監督による映画も未見です。

1年前、私好みの素敵な表紙のペーパーバックを見つけ、迷わず入手(このチョークアート風のデザイン、ほんと好き)。届いたその日にはりきって本を開いたものの、数ページ読んだところで「私にはまだ早い」と思いました…。自分の英語力では、執拗に積み重ねられる細かな情景描写を追うのが精一杯で、そこに隠された作者の意図まで読み取ることは不可能だと感じたのです。そこで読むのをいったん諦め、読めるようになる日をじっくり待つことにました。

それから1年がたち、ハロウィーンの季節になりました。表紙いっぱいに不穏な雰囲気を醸し出すこの本を再び手に取り、満を持しての再挑戦。はじめの数章にはやはり手こずったものの、今回は、神秘的で緊張感あふれる物語の世界にたっぷりと浸ることができました!

この1年ほぼ休みなく洋書を読み続け、これまで馴染みのなかったジャンルの作品にも挑戦してきたことで、自分でも気づかないうちに英語の基礎体力が強化されていたのかもしれません。「継続は力なり」という言葉を身をもって実感しました。苦手意識のあったクラシック作品を最後まで読み通せたことで、ちょっと自信がついたかも…。


さて「レベッカ」の感想ですが、この本の魅力はやはり、私が一度めに読んだ時には味わうことのできなかった、詩的な情景描写やきめ細やかな心理描写にあります。主人公の目に映る日常のさまざまな光景が、極上のシズル感とともにミルフィーユのごとく何層にも重ねられ、人生における「やるせなさ」や「ままならなさ」が巧みに表現されているのです。

ここであらすじを簡単に。

若く内気な主人公「わたし」は、旅先のモンテカルロで英国紳士のマキシムと出会い、妻として迎えられます。しかしマキシムとの間にロマンチックな新婚生活はありませんでした。マキシムは「わたし」を子供扱いし、つれない態度をとるばかり。マキシムの所有する大邸宅マンダレーで、「わたし」は孤独な日々を送ります。
マキシムは前妻のレベッカを
1年前に亡くしていました。今でもマンダレーの至るところにレベッカの存在感が色濃く残されています。「わたし」はマキシムの親戚や使用人から何かにつけてレベッカと比較され、妻としての自信を失い不安に苛まれるようになります。そこへ、レベッカの死にまつわる驚くべき事実が明らかになり…。

…というお話です。私が一番気に入っているのは、物語の序盤、マキシムが朝食をとりながら「わたし」にプロポーズする場面。「ゴシック・ロマンス」に分類される作品であればここは当然ロマンチックに描かれるべきところですが、そこはデュ・モーリアさん、ひと味違います…。

マキシムがプロポーズをしている最中、テーブルに置かれたマーマレードにハエがたかるんです! ロマンス小説にハエですよ…!? マキシムはそれを手ではらったあと、ハエがたかったばかりのマーマレードを、何食わぬ様子でパンに塗りつけるのです…。

なんかねえもう…物語がこれから動き出すというところで、うら若き乙女の理想をいきなりぶち壊すこの残酷さ。「わたし」を待ち受ける将来を暗示する描写としてあまりにも秀逸です…。マーマレードというちっぽけな小道具にすら緊張感が宿る、デュ・モーリアの表現力にはただひたすら唸らされました。

こんな感じでマキシムの妻となった「わたし」は、結婚後もいろいろと散々な目に遭い、精神的に追い詰められてゆきます。読んでるこちらとしても本当に痛々しいのですが、唯一の救いが、このプロポーズの場面をはじめ幾度となく登場する食事の描写です。私は小説や映画を楽しむにあたり、食べ物が丁寧に描かれている作品はもれなく名作認定するのですが、「レベッカ」もその一つになりました。食事の場面にも登場人物の心理状態が巧みに描かれていて、物語の進行に合わせ、その変化を読み取るのがとても楽しかったです。

…ということで、出会うのがとても遅くなってしまいましたが、私は今、「レベッカ」を原書で読み終えた幸せを満喫しています。衝撃的なラストを読み終えたあとすぐさま最初のページに戻り、2周目を楽しんでいるところです。どうやらこの小説は、2周してはじめてすべてのつじつまが合うように作られているようです。


そういえば、ヒッチコック監督による1955年の映画「ハリーの災難」でも、シャーリー・マクレーンとジョン・フォーサイスのキスシーンで「ハエ」が画面に映り込むんですよねえ…。不吉な出来事の象徴として意図的にやってるんだと思いますが、ロマンチックな場面でそれをやるなんて、デュ・モーリアもヒッチコックも、少々イジワルがすぎますよ……。






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Commented by Michiko at 2019-10-31 12:03 x
Hirokoさん


ほんと!
思わず手に取りたくなるジャケットですね!

数十年前に映画で観たのですが、
内容はすっかり忘れています。

どうかなぁ。私に読めるかなぁ。
でもこのジャケットの本は欲しいしなぁ。

と葛藤しています。
Commented by book-of-dreams at 2019-10-31 22:21
>Michikoさん

こんばんは〜!
このカバーに出会わなければ
おそらく読む機会を失ったままだったかも…。

私はこの本を本棚でも目立つところに置いて
これを読むことを一つの目標にしていました。

あと、貴族の生活をイメージしやすくするために
「ダウントン・アビー」を観て予習しました。
これがなかなか、効き目バッチリでしたよ!
Commented by aomeumi2 at 2019-11-01 15:38
青目
イイネをありがとうございます。
「去年マリエンバードで」ぜひおすすめです。レベッカがお好きなら、きっとお気に召すかも・・・。
もう敵いませんが、原書で本を読む・・・なんて素敵なんでしょう。
「ダウントン・アビー」・・・私も大好きです。
Commented by book-of-dreams at 2019-11-01 16:49
> 青目さん

こんにちは〜!
「去年…」これは手強そうな映画ですね。
私には理解できそうにないですが
ココ・シャネルの衣装だけでも
観る価値がありそうです!

昨今は分かりやすいモノばかりが
もてはやされる傾向にあるので
解けないパズルの世界に自ら飛び込むのも
悪くないと思っています。

「ダウントン・アビー」
性格の悪い人が魅力的に描かれてるのが
いいですね〜( ^∀^)
by book-of-dreams | 2019-10-30 23:00 | ミステリー | Comments(4)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko