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NYの名所が舞台のアートミステリー The Masterpiece (Fiona Davis)

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私にとって読書は趣味のひとつにすぎませんが、食事や睡眠と同じぐらい、毎日の生活に欠かせない習慣でもあります。1日のうちの貴重な数時間を読書に割くわけですから、自分の血となり肉となるような、何かしらの学びが得られる本を読みたいものです。できればそれは堅苦しい専門書や自己啓発本などではなく、人間模様を巧みに描いたフィクションがいい。

今回ご紹介する「The Masterpiece」は、そんな私の知的好奇心をお腹いっぱいに満たしてくれました。異なる時代のニューヨークに生きる2人の女性の姿を通じ、ニューヨークの街の歴史とアートの世界の光と陰がドラマティックな展開で描かれる、極上の歴史エンターテインメント小説です。

[あらすじ]
1928年のニューヨーク。Clara Dardenは、グランド・セントラル駅の構内にある美術学校でイラストレーションの講師を務めていました。女性であること、またイラストレーションの芸術としての価値の低さから正当な評価が得られず、苦しい生活を強いられていました。
それでも懸命に努力を重ね、雑誌Vogueにその才能を認められたのをきっかけに、イラストだけでなく工業デザインの世界でも成功を収めます。しかしClaraは、1931年にニューヨークで起こったある出来事を境に忽然と姿を消し、世間からその名を忘れられてしまいます…。

1974年。Virginia Clayは夫と離婚し、新たな人生を歩もうとしていました。グランド・セントラル駅の総合案内所で働き始めたVirginiaは、かつて駅の構内に美術学校があった事実を知ります。教室だった部屋は物置きと化し、ホームレスが辺りをうろつく薄気味悪い場所になっていました。「あの部屋には幽霊がいる」と言い出す仕事仲間もいるほどです。
ある日Virginiaは、その部屋で1枚の絵画を見つけます。絵の作者はClara Darden。画家の名前をVirginiaは知りませんでしたが、その絵に強く惹かれて思わず家に持ち帰ってしまいます。Claraの絵に出会ってから不可解な出来事が立て続けに起こり、Virginiaはこの絵に何か秘密が隠されていることに気づきます。仕事仲間のいう「幽霊」とは誰なのか。Clara Dardenはなぜ姿を消したのかー。
その頃、グランド・セントラル駅では再開発の計画が進み、その美しい駅舎は解体の危機に晒されていたのでした…。

世界恐慌、そしてニューヨークを代表する歴史的建造物の解体危機という二つの史実をベースにしたフィクションです。いやーこの本、大当たりでした!この著者の作品を読むのは初めてですが、その筆力にたちまちファンになってしまいました。

巧みなプロット、そしてスリリングな展開。2つの時代を行ったり来たりしますが、変にこねくり回して読者を混乱させることなく、ぐいぐいと一気に読ませてくれます。ストーリーを楽しく追いながらニューヨークの近代史やアートに関するトリビアを同時に学べる、ひと粒で二度も三度も美味しく味わえるお得な一冊です。アメリカのモダンアートに詳しくて勘のいい人なら割と早い段階で結末が読めてしまうかもしれませんが、かじる程度の知識しかない私には十分に楽しめる内容でした。

そして何より、女性の立場が今よりもさらに弱かった激動の時代に、自分の力で人生を切り開いていこうとする2人の女性の姿に感動しました。ポップアートの先駆け的存在でありながら不遇の運命をたどるClaraも、私生活の困難を乗り越えたくましく生きていこうとするVirginiaも、どちらも魅力的。

特にVirginiaは、Claraの謎を追求していくうちにみるみる輝きを増し、大胆になっていきます。情熱が先走って色々とヘマをやらかす様は、まるでコージーミステリーのヒロインのよう。「Virginia、ちょっと落ち着け」と言いたくなりますが、その一生懸命さで周りを巻き込んでいく姿に心を打たれるのです。

ちなみに、この本に登場するグランド・セントラル駅構内の美術学校はかつて実在していたものです(1923年開校、1944年閉鎖)。この美術学校で講師を務めていたHelen Drydenというアーティストは、Clara Dardenのモデルとなっています。またClaraの同僚の画家Levonにもモデルとなる男性講師がいます(Arshile Gorky)。気になる方はGoogleで画像を検索してみてくださいね。ただしWikipediaなどにはネタバレが含まれているので、謎解き重視の方はご注意ください。

物語の舞台となったグランド・セントラル駅には、何度か行ったことがあります。コンコースに立つだけで映画やドラマの主人公のような気分に浸れる、ニューヨークの中でも特に好きな場所です。が、かつて駅舎の建て替え計画があったという事実は、この本を読むまで知りませんでした。次にグランド・セントラル駅を訪れる時には、この本で得た感動を胸に、建物の細部にわたってじっくりと眺めてみたいと思います。

それにしても、アートって何なんでしょう。アートと商業デザインの違いって何? 芸術とお金の関係は? そして芸術家の成功の鍵とはいったい何なのか…。この本を読んで、さらに興味が深まりました。




アートミステリーといえば、和書ですがこちらも面白かったです。


*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

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by book-of-dreams | 2019-09-28 20:25 | 歴史小説 | Comments(0)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko