人気ブログランキング | 話題のタグを見る
懐かしいその人の元気そうな姿に、思わず顔がほころんだ。

2008年のちょうど今ごろ、私は一人でニューヨークを訪れていた。ニューヨークを旅するのはそれが初めてだった。見るもの聞くものすべてが新鮮で、大きな刺激に満ちていた。街の人々はみんな親切で、旅のあいだに言葉を交わした人たちのことは今でもよく覚えている。中でも心に深く残っているのは、セントラルパークでサックスを演奏していた男性だ。

その人は、あれから13年たった今でも毎日のように同じ場所に立ち、演奏を続けているのだという。コロナ禍のロックダウンでマンハッタンから人の姿が消えていた期間もずっと、セントラルパークにその音色を響かせていたのだそうだ。しかも彼は、短編ドキュメンタリー映画の主役になったり(映像はVimeoで視聴可能。そうそうこの声、この表情!)、テレビ局のニュースでも取り上げられたりするなど、どうやら地元ではその存在を広く知られているらしい。

NY在住の「りばてぃ」さんのブログでその事実を知り、あの時の思い出が再び鮮やかに蘇ってきた。


あの時、彼の演奏を聴いているのは私ひとりだった。力強さと優しいぬくもりをあわせ持つ音色。私と目が合うと、彼は演奏しながらニコッと笑った。私は手元のカメラをちょっと持ち上げ、撮ってもいいかと無言でたずねた。彼は笑顔のままでうなずいたが、カメラを構えると急にあらたまった表情になり、それがなんだか可笑しかった。


ニューヨークから遠く離れて_e0414617_22065572.jpeg
その時撮った写真がこちら。



演奏がひと区切りついたところで私は拍手し、彼の足元の楽器ケースに1ドル札を入れた(もう少し多くあげたかったが、財布の中身が心許なかったのだ)。すると彼は再び笑顔に戻り、私に話しかけてきた。

聴いてくれてありがとう。君は日本人かい?

「イエス。東京から来ました」と答えると、彼の笑顔がさらに明るく輝いた。オー、トーキョーか。僕は以前ロッポンギで演奏したことがある。トーキョーはすごくいい街だね。

そう言うと、彼は私に名刺を差し出した。今夜、◯◯◯っていう店で演奏するから(お店の名前は全く聞き取れなかった)、よかったら聴きにおいで。道に迷ったらこの番号に電話してくれればいいから。

ラルフ・U・ウィリアムズさん、それがその人の名前だった。

ニューヨークから遠く離れて_e0414617_22064744.jpeg
もらった名刺。
13年経ってだいぶ汚れてしまったが、捨てられずにずっと取ってある。



「ありがとう。では行くときには電話しますね」そう言って、私はその場をあとにした。

結局のところ、その夜ウィリアムズさんの演奏を聴きに行くことはなかった。東京でもジャズクラブみたいなところには行ったこともないのに、マンハッタンのジャズクラブに一人で乗り込んでいく度胸などあるわけがない。そういう場所に着ていけるような洋服も持ちあわせていない。それに、ハドソン川を越えたニュージャージーの宿に泊まっていたので、帰りの足も心配だった。

帰国してから、やっぱり演奏を聴きに行くんだったと後悔した。旅先から持ち帰ったこまごました物は今ではほとんど手元に残っていないが、ウィリアムズさんの名刺を今でも大事に取ってあるのは、あの時の後悔が心のどこかにずっと残っていたからだ。

ウィリアムズさんが今も元気に演奏を続けていることを知って、心が弾んだ。お互いに健康で、そして生きていさえすれば、セントラルパークでまたあの音色を聴けるのだ。



地元テレビ局のインタビューで、ウィリアムズさんは演奏を続けることについてこう語っている。「単に演奏しているわけではない。魂を引っ掻いているようなものだ("I'm not just performing. I am scratching my soul, so to speak.")」

魂を引っ掻くって、どういうことだろう。ミュージシャンが発する言葉だから、アナログレコードでスクラッチ音をたてるような感じなのだろうか? 魂を引っ掻き続ければやがて無数の小さな傷ができ、そこから血が噴き出ることもあるかもしれない。時が経てば癒える傷もあれば、深い傷跡として残ってしまうこともある。でも、命を脅かすほどの傷じゃなければ大丈夫。今日も魂を引っ掻いて、自分はここにいるぞと誰に対してでもなく小さく叫びながら、自分の足でしっかり立って生きていく。

セントラルパークに立ち続ける日々の中で、ウィリアムズさんはいいことも悪いこともたくさん経験してきたことだろう。そして、自身の目の前で繰り広げられるさまざまな人間模様を眺めながら、生きることの意味を考え続けていたのかもしれない。


そんなウィリアムズさんが見てきたであろうニューヨーカーの小さなドラマが詰まった一冊の本がある。「Goodbye to All That」という、ニューヨークの街をテーマにしたエッセイ集だ。ウィリアムズさんの近況を知ってから無性に読みたくなって、久しぶりに本棚から引っ張り出した。

ニューヨークから遠く離れて_e0414617_22065139.jpeg


憧れのニューヨーク生活を手に入れたものの、高い家賃に耐えかね、そして慌ただしいだけの日常に疲れ果て、やがて街を去ってゆく。そんな切ないストーリーが、28人の女性作家によって語られる。

ニューヨークはツーリストには最高の街だが、いざ住人になろうとすると途端に態度を一変させ、目の前に厳しい現実を突きつける。ウィリアムズさんのように一つの場所にとどまって、自分の好きなことをやり続けられる人ばかりではないのだ。しかし、無念の思いを抱いて街を出ていく人たちもまた、魂を引っ掻きながら生きていることに変わりない。魂を引っ掻き続けてできた傷をそれぞれのやり方で癒し、前に進んでいく。そんな彼女たちの物語は、キラキラした成功物語より遥かに私の胸を打つ。

それにしても、都会での生活をあきらめて街を去るという話なら東京にもいくらだって転がっているはずだが、舞台がNYになるとたちまち心を揺さぶるドラマに仕上がってしまうのはなぜだろう。数々の困難が待ち受けていると分かっていながら、世界中の人々が夢を抱いてニューヨークにやってくる。いつかウィリアムズさんに再会することができたら、彼の考えるニューヨークの魅力とは何なのか、魂を引っ掻き続ける場所として彼がなぜニューヨークを選んだのか、聞いてみたいなあと思う。




表紙に惹かれて購入して以来、気が向いたときにパッと開いた章をつまみ読み。そんな読み方が心地よい本です。


新版もあり。エッセイ数編が入れ替え及び追加となっているようです。表紙は旧版のほうが私は好きかな…。


ウィリアムズさんの写真を載せた2008年の旅の記録はこちらです↓
りばてぃさんのブログ「ニューヨークの歩き方」ウィリアムズさん紹介記事です↓




*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

洋書ブログランキングに参加しています >> にほんブログ村 洋書ブログ




# by book-of-dreams | 2021-06-16 08:52 | エッセイ | Comments(2)
貧困を美化する風潮にクギを刺す衝撃のノンフィクション Nomadland (Jessica Bruder)_e0414617_18042558.jpeg

米国アマゾン・ドット・コムが、自社の倉庫で働くスタッフのためにキャンピングカー用の駐車場を借り上げている。…この本でその事実を知ったとき、あまりの驚きで空いた口が塞がりませんでした。スタッフの福利厚生のためにオートキャンプ場を整備して余暇を楽しんでもらうとか、そういう呑気な話ではないんですよ。

米国アマゾンが借り上げた駐車場を利用しているのは、生活に困窮していわゆる「普通の家」に住むのを諦め、車上で生活することを選んだ人たちです。そしてその多くは、本来であれば退職金と年金で優雅な生活を送っていたはずの高齢者。家も老後の蓄えもすべて失い車ひとつで全米各地を放浪する彼らは、この駐車場に1シーズンとどまり、アマゾン・ドット・コムの倉庫で1日10時間にも及ぶ商品ピッキング作業に従事するのです。

冬のショッピング最盛期の過酷な重労働に耐え抜くと、彼らは再び路上に出ます。夏のキャンプ場や遊園地のスタッフ、農作業といった肉体労働にありつくために。怪我や病気や車両故障などの不安と常に隣り合わせで…。

この衝撃的なルポをフィクション仕立てで描いた映画『ノマドランド』は、本年度アカデミー賞の本命とも言われているようです。日本公開版の公式サイトに載っている著名人のコメントには「大自然の風景が美しい」だの「現代の閉塞感からの脱出口」だの「旅に出たくなった」だのといったキレイな言葉が散見されますが、本を読んだ上での私の感想とはずいぶん違うなあという印象。おそらく映画のほうは見る者に希望を感じさせるような作りになっているのだとは思いますが、このような屈託のないコメントには若干の違和感を覚えます。

だって、これは2泊3日の楽しいキャンプ旅行の話じゃないんですよ。優雅な隠居生活を送る御年配がちょっとした気まぐれで野外生活をしてみるみたいな話じゃないんですよ。体力の充分にある若者が夏休みに冒険気分を味わいながら小遣い稼ぎをするような話とは全く違うんですよ…。上に挙げたような「映えるコメント」は貧困問題の美化につながるもので、この作品が本当に伝えたいこととは正反対なのではないかと思うのです。本の著者ジェシカ・ブルーダーも「ノマド生活を『なんだか楽しそうなオルタナティブスタイル』と見なすのは危険なことだ」と、こちらの記事で警告を発しています。



現代のノマド(放浪者)は、自らをワーキャンパーと呼びます。「仕事(work)」と「キャンプをする人(camper)」を掛け合わせた造語です。日本でもワーケーション(work + vacation)なる言葉を定着させて商売しようとしている人たちがいますね…。そしてそのワーキャンパーたちは、自分たちはホームレスではなく「ハウスレス」なのだと言い切ります。従来の意味での家(ハウス)がないだけで、居場所(ホーム=住むところや働き口)はちゃんとある。だからホームレスとは違うのだ、と。それはそれで素晴らしい考え方だし、社会への恨み節を唱えることもなく自由な生き方を模索し続ける彼らの姿は、私の目にも時にまぶしく映ります。でも。

見栄えのいい言葉は、不都合な事実を覆い隠すだけの道具に過ぎません。彼らが失業することも資産運用に失敗することもなく、居心地のいい家や温かなベッドを手放さずに済んでいたら、放浪生活など好き好んで選んでいたでしょうか。

アマゾン・ドット・コムによるワーキャンパー向けの求人ページをぜひ覗いてみてください。RV車の側でのんびりくつろぐご夫婦(?)の写真とともに充実の謳い文句が並んでいます。このページに果たして実情がどのぐらい反映されているのでしょうか…。この本に登場するノマドワーカーの停泊地をGoogleストリートビューで検索してみると、高齢者がこんなところで暮らし働いているのかと、しばし言葉を失います。

これも多様な生き方のひとつだと言われればそれはその通りです。狩猟採集社会を生きた人々は季節の移り変わりとともに土地から土地へ移動するのが当たり前だったのですから、人間の原点に戻っただけだとも言えます。高齢ワーキャンパーの多くが白人であることを考えると、生き方を選ぶ余地があるだけマシだとも言えるでしょう。人それぞれの人生に正解などありませんが、地道に真面目に真っ当に生きている人の努力が報われる世の中であってほしい。私の願いはそれだけです。今の仕事を失えば再就職はなかなか厳しい…そんな年齢になってしまった私にとって、高齢ワーキャンパーの姿を他人事として捉えることはできません。


この本を読んで「Amazonとんでもないな」と何度も深いため息をついてしまいましたが、それでも、Amazonを100パーセント悪と見なす気にはどうしてもなれません。買い物が不便な場所、生活圏内に書店が1件もないような街に住む人にとってはAmazonのような企業は救世主です(私の出身地はまさにそんな地域です)。Amazonに限らず、物事には必ず光と影の側面があります。一消費者としてその影の部分も知った上で、サービスを利用するべきか否かをそのつど判断していくしかないのかなあと思っています…。


この本を読んだ後でAmazonアソシエイトのリンクを貼るのは非常に気が引けますが…Kindle版の洋書はお手頃価格の500円台です(価格は今後変わる場合があります)。すでに映画をご覧になった方もぜひどうぞ…。



Amazon倉庫の過酷な労働環境に関してはこちらの本でも知ることができます。このような本もきちんと扱うところも私がAmazonを完全に悪と言い切れない理由なのです…。



ちなみに私は最近、紙の本は洋書・和書問わずAmazon以外で購入することが多いです







*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

洋書ブログランキングに参加しています >> にほんブログ村 洋書ブログ




# by book-of-dreams | 2021-04-11 17:14 | ノンフィクション | Comments(4)
近未来に思いを馳せながら現代社会を見つめ直す クララとお日さま/Klara and the Sun (Kazuo Ishiguro)_e0414617_14255323.jpeg
2011年の春、東日本で起こった震災が日本中に暗い影を落としていたころ、私はカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んでいました(稚拙な感想を雑記ブログに残しております)。

あれからちょうど10年と言うタイミングで、カズオ・イシグロの新作『クララとお日さま(原題 : "Klara and the Sun")』を手に取ることになりました。イシグロは10年前と同じように、先の見えない不安な状況のもとで自分が大事にすべきものは何なのかを考える機会を私に与えてくれたのでした。

イシグロが描くような近未来、つまり人間がAIロボットを当たり前に所有する時代が本当に来るとするなら、私は今から自分の生き方を見つめ直さなければいけない、と思いました。例えば今日読む本の選び方やその本の置き場所といったほんの小さなことにも、人間は注意を払わなくてはならないのです。

AIロボットの「クララ」はたいへん優秀で、所有者である少女を一途に愛して彼女の幸せのために尽くそうとします。しかしクララがいかにしてそのような性格を持つに至ったのかについては、きめ細やかな描写の断片をかき集めて読者自身が想像するしかありません。それは、現実社会に生きる私たちが日ごろ一番おろそかにしている類いの作業です。あらゆる局面において結論だけを早急に追い求め、その過程や背景にあるものに目を向けようとしない私たち。クララの美しく切ない物語は、そんな私たちに対する愛にあふれた警告です。



この素晴らしい作品をまず日本語で読みました。世界で発売されるのと同時に自分の国の言葉で読める…これ以上の幸せがほかにあるでしょうか。いやあるはずがない。土屋政雄さんの翻訳による美しい敬体(です・ます調)での語りは、これまでの作品(『日の名残り』『わたしを離さないで』)の中でも最も効果的に作者の意図を表現していると思います。巷に溢れる音声ガイドの口調に、われわれはすっかり慣れてしまっていますからね。


美しい表紙の日本語版だけで私の所有欲は満たされ、当初は原書を買うつもりはありませんでした。しかし物語を読みすすむに連れて洋書のデザインも秀逸だなと思えてきて、日本語版を読了したその日に原書も購入してしまいました。今は原書で2周目を読んでいますが、日本語と英語それぞれの美しい文章から得たさまざまな思いがミルフィーユのように心に積み重なり…。当分は自分の傍に「クララとお日さま」があるだけで心豊かに生きていけそうです。







*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

洋書ブログランキングに参加しています >> にほんブログ村 洋書ブログ




# by book-of-dreams | 2021-03-08 10:21 | SF・ファンタジー | Comments(2)
真夜中の図書館で探し求める幸せの秘訣 The Midnight Library (Matt Haig)_e0414617_21522323.jpeg

取るに足らない日常を離れて他人の人生を擬似体験することは本を読むことにおける大きな楽しみですが、今回読んだ「The Midnight Library」は少し違った意味で、私に読書の醍醐味をたっぷりと味わわせてくれました。

私はこの本を読んで、何者かになろうとしてもがいているのは私だけではないと実感し、心の底からホッとしたのでした。登場人物の中に自分と似た人を見つけて自分の今の立ち位置や人生のあり方を確認することもまた、私にとっては大いに意味があることなのです。

生と死のはざまの世界で自分探しをする女性が主人公のフィクション。現実の世界と異次元の世界との組み合わせで描かれた、SFともファンタジーともつかない不思議な世界観で物語は展開されます。非現実的なストーリーはどちらかというと苦手な私ですが、この作品は別でした。主人公が抱える期待や不安や落胆や葛藤といったさまざまな感情に、自分の姿をリアルに重ね合わせながら読みました。

ページを繰りながら、今ではあまり思い出したくない過去の数々の過ちや、心の引き出しに鍵をかけて取り出せないようにしていた辛い感情を掘り返すことになりました。それは決して愉快なことではないはずなのですが、この本を読みながら自分の記憶を整理する時間は、私にとってはとても豊かなものでした。

実は私もかつて、この物語の主人公と同じように、一度だけですが本気で死を考え、寸前までいったことがあります。詳しいことはここには書きませんが、仕事や人間関係など何につけてもうまく行かず、将来への希望が持てなくなっていたのです。あの日、死ぬのはとても簡単なことのように思えました。さあ行くぞ、という瞬間に、自分の中で声がしました。「簡単なことだというのなら、それはいつでもできることだ。だったら別に今じゃなくてもいいじゃない?」そうして私は思いとどまったのでした。

あの時に死を選ばなかったおかげで、あれから私は自分に合う仕事を見つけ、今の夫と出会い、ギターを弾く楽しみを覚え、ニューヨークの地下鉄で理想の生き方を見出し、本を読む楽しみをこうしてブログに書いています。

もちろん、全てが理想通りというわけではありません。今の仕事は自分に合ってはいるけれど、本当にやりたいと思っていることとは少し違います。夫とつまらないことでケンカして、お互いに釈然としない思いを抱えることもしょっちゅうです。ギターは全然上手くならないし、私が書き散らす本の感想(とすらいえないただの自分語り)がニューヨークで出会った彼のように見知らぬ誰かに影響を与えているとはとても思えません。でも、そんなに悪い生活ではないと、今のところは思えています。この先まだまだ色々なことが自分の身に降りかかるかもしれないけれど、ひととおりいろんな思いをしてきたから大丈夫、なんとかなるだろう…と楽観的に構えている自分がいます。

私の歴史に刻まれた過去の出来事は、他の誰も手にすることのできない、自分だけの持ちものです。何者かになろうとして足りないものを数えるよりも、今自分が持っているものを大切にする方が、人は幸せに生きられるはずです。


***

この作品は当初、キャリー・マリガンの朗読に惹かれてAudibleで聴き始めました(彼女の低くて落ち着いた声が大好きなのです)。美しいブリティッシュアクセントの朗読はとても聞き取りやすく耳だけでも最後まで楽しめそうでしたが、やはりこの本は物として持っていたいと、ちょっと奮発してハードカバーを購入しました。ちょうどペーパーバックが発売になるというタイミングでしたが、それでもハードカバーを選んだ理由は、扉を開くと目に飛び込んでくるこの貸出カード。印刷なんですが、ちょっとそそられませんか? ペーパーバック版にもこの仕掛けはあるのかな…。でもやっぱりハードカバーの方が雰囲気は出ますよね。

真夜中の図書館で探し求める幸せの秘訣 The Midnight Library (Matt Haig)_e0414617_21522755.jpeg

本のテーマに合わせて、しおりも友人からお土産にもらったニューヨーク公共図書館のものにしました。

真夜中の図書館で探し求める幸せの秘訣 The Midnight Library (Matt Haig)_e0414617_21523254.jpeg

本って本当にいいものですよね。





本好きにはたまらない…読書記録にもなる図書館カード風しおり↓




*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

洋書ブログランキングに参加しています >> にほんブログ村 洋書ブログ




# by book-of-dreams | 2021-02-25 12:06 | SF・ファンタジー | Comments(2)
『コブラ会』の新シーズンを待つあいだに読んでおくといいかもしれない本(その1) Zen Mind, Beginner\'s Mind (Syunryu Suzuki)_e0414617_13221451.jpeg

Netflixで配信中のドラマ『コブラ会』。1984年に公開され大ヒットを記録したアメリカの青春映画『ベスト・キッド(原題 "The Karate Kid")』の34年後を描いた作品です。オリジナルキャストが再び集まり熱い闘いの火花を散らすということで、大きな話題となりました。

私も、シーズン1から3まで3日間で一気に観てしまうほど、このドラマにハマってしまいました。かつてのいじめられっ子といじめっ子が、片や誰もが羨む成功者、片や人生の負け犬という状況にある中で空手の師匠として再び対峙する…。この設定は『ベスト・キッド』のファンにとってはたまらない構図。彼らの弟子となるイマドキの若者たちの事情もふんだんに盛り込み人間模様が複雑に絡み合うスリリングな展開は、一度見始めたら途中でやめられないほどの面白さです。

シリーズの継続は発表されていますが、新型コロナの影響もあり、次シーズンの配信はいつになるのやら。すっかり「コブラ会ロス」に陥ってしまった私は、シーズン1の初回からもう一度観て、その間に『ベスト・キッド』も幾度となく見直し、YouTubeでメイキング映像や出演者のトークなど関連動画を漁りまくっています。ひとつの映像作品にこんなにものめり込んだのは本当に久しぶり。

実は『ベスト・キッド』は、私が生まれて初めて劇場で観た外国映画なのです。あれは小学6年生の時。一足先に映画を観た兄が部屋に放っていたパンフレットを読み、「これは面白そうだから私も観たい」と兄にせがんで映画館に連れて行ってもらったのでした。

それまでに映画館で観た映画といえば、銀河鉄道999とか東映まんがまつり(これって今も続いてるんですね!)とかたのきん映画(私はトシちゃんが好きでした)などです。レンタルビデオも存在しなかった私の子供時代、洋画は「ゴールデン洋画劇場」や「日曜洋画劇場」などのテレビ放送で見るものでした。映画館で外国映画を(しかも自分が観たいと思った作品を)観るということは私にとってはまさに大人への第一歩と言える行為で、この上なくワクワクしたのを覚えています。

そんな思い出もあって、映画『ベスト・キッド』には特別な思い入れがあります。この映画からは生きる上で大切なことをたくさん教えてもらえたので、自発的に観た初めての洋画がこの作品で本当によかったなあと思っています。

いじめられっ子の転校生が空手の技を身につけ、自分をいじめる不良グループを打ち負かすというストーリーは気持ちのいいものでしたが、子供ながらにもっとも惹かれたのが、主人公ダニエルに空手を教える謎の東洋人、ミスター・ミヤギの存在でした。

多くを語らず、争いごとを嫌い、孫ほどの歳の差があるダニエルを「さん」付けで呼ぶミヤギ先生。「暴力では何も解決しない」空手の達人であるミヤギ先生のその言葉は私の心に深く刻まれ、自分の学校にもミヤギ先生みたいな人がいてくれたらなあと思ったものでした。当時の教育現場には、生徒に平気で暴力をふるう教師がまだまだ普通にいましたから。

空手を習いたいというダニエルに対し、ミヤギ先生は車のワックスがけや壁のペンキ塗りなどの雑用を命じます。右手でワックスを塗り、左手でワックスを拭き取る(”Wax on, wax off.”)。黙って言われた通りにやれ。つまらない雑用ばかりさせられて空手を教えてもらえないことにダニエルは不満を募らせますが、その単純作業の連続こそ、ミヤギ先生が空手において最も重要視する「防御」の動きにつながるものでした。知らず知らずのうちにその動きをマスターしていたことにダニエル自身が気づくシーンは、映画史上屈指の名シーンだと思います。このシーンを見返すたびに、私の胸に熱いものが込み上げてきます。

ミヤギ先生の教えは一貫しています。やるべきことがあるならそれ一点に集中し、全精力を注ぐこと。これは今流行りのアニメでいうところの全集中の呼吸というやつでしょうか…。そのアニメを観ていないことが丸わかりで恥ずかしいのでこれ以上は触れないでおきますが…。まあとにかく、ただひたすらやり続けること。無心で実践し続ければ結果は自ずとついてくる…ミヤギ先生はシンプルな言葉と行動でそれを示してくれるのです。

この「ミヤギ道」に通じる精神を洋書でも学ぶことができます。アメリカに禅を広めた曹洞宗の僧侶、鈴木俊隆師の教えをまとめた「Zen Mind, Beginner's Mind」です。あのスティーブ・ジョブズ氏も愛読した禅の入門書としてご存知の方も多いでしょう。

ミヤギ先生の教えは、この本に書かれている禅修行そのものです。ただひたすら座禅を組むこと。それをする理由は考えず、またそれがもたらす結果も求めず、ただ実践するのみ。それを継続できる者だけが、勝ち負けや善悪にとらわれない自由な精神を手にすることができる…これが禅の教えです。ミヤギ道カラテにおける絶え間ない防御の稽古は、自由な精神を得るための唯一の手段なのです。相手がどんなに汚い手を使って攻撃してきても防御ができれば殴られることはなく、また相手を無用に傷つける必要もなくなるのですから。

そして禅修行と空手修行において何よりも重要なのは、修行に終わりはないということです。この修行の難しさは、『コブラ会』の中でもしっかり描いてくれています。

『ベスト・キッド』でヒーローとなったダニエルは、その後もミヤギ先生の教えを心に留めて生きてきたと見え、立派な大人に成長しビジネスで大成功、幸せな家庭にも恵まれました。日頃は温厚なダニエルも、不意に沸き起こる怒りやいらだちに我を忘れて無茶な行動をとり、トラブルを招いてしまいます。思えば『ベスト・キッド』時代のダニエルも、自分をいじめる不良グループの神経を逆撫でして相手をムダに刺激するようなところが多々ありました。ミヤギ先生はダニエルの持つそんな未熟さを見抜いた上で軌道修正を図ってくれましたが、そのミヤギ先生はもうこの世にはいません。ダニエルは、自分をいじめたかつてのライバルと対決する前に、内なる敵である自分の弱さと常に向き合わなければならないのです。

かつては高校生だった私も、今では中年版ダニエルの気持ちが痛いほどよくわかります。いくつになっても、揺るぎない心を持ち続けるのは至難の業。人生とは一生続く修行なのだなあ…(しみじみ)


本のブログなのに、気がつけば自分の好きな映画とドラマについて長々と語ってしまいました…。申し訳ございません。えー、「Zen Mind, Beginner's Mind」は数年前に一度読んだのですが、その時は雲をつかむような、わかったようなわからないような…そんな気分で読み終えたものです。しかし『コブラ会』にのめり込みミヤギ道の神髄に再び触れてからというもの、この本の内容がだいぶ具体的な形で心に染み込んだ気がします(本の内容を理解することとそれを実践することは全く別の話)。

当ブログにお越しいただいた方の中には英語を学習中の方もいらっしゃると思いますが、『ベスト・キッド』と『コブラ会』をまだご覧になっていない方は今からでもぜひお楽しみください!英語ネイティブとの会話が弾むこと請け合いです。会話の中でスティーブ・ジョブズ氏も愛した「Zen Mind, Beginner's Mind」についても一言触れれば、相手に一目置かれること間違いなし…かもしれない…です(急に弱気になったので今から防御の稽古してきます)。禅の精神は語学にも通じるものです。外国語の勉強にも終わりはありませんから…。




日本語版はKindle Unlimited読み放題対象です


『ベスト・キッド』を今から見直すなら第1作のみでOK。2〜4とジャッキー・チェン出演のリメイク版は省略可ですw





*** いつもお読みいただきありがとうございます ***

洋書ブログランキングに参加しています >> にほんブログ村 洋書ブログ




# by book-of-dreams | 2021-02-21 17:17 | 日本の文化 | Comments(0)

趣味で洋書を読んでいます。表紙に一目惚れして衝動買いした洋書のレビュー、本に対する偏愛、英語の勉強などについて綴ります。


by Hiroko